「良きぐい呑」とは、どんなものなのかを考えてみたい。
端的に言えば、前項の「ぐい呑」の見どころを押さえた上で、品格を感じる器が良いという事になるが、少し難しいので、実践的に話をしようと思う。
例えば、私が実際に「ぐい呑」を選ぶ手順を追いながら、ポイントの説明をしてみようと思う。
まずは、見た目の形、全体的なフォルムをどう選ぶのか考えてみたい。
よく、どのような形が良いのか?とか、どの色を選んだら良いのかなどを問われる事があるが、これは個人的な「好き」とか「嫌い」などの「好みの問題」だと思う。
まずは、ぱっと見た好みで選んでもらって良いと思っている。
無責任に言っているわけではなく、あなた自身が好きになった「ぐい呑」で楽しむ事が、結果として一番の正解だからである。それこそ自由な感性で楽しんでいただきたい。
見た目に気に入ったものを見つけたら、実際に手に持って、感触を確かめてみたい。これは必ず購入前にやって欲しい。
また、ただ触るのではなく、実際に酒を飲む時のように、親指と人差し指の2本の指でぐい呑を持ち上げ、飲み口を自分に向ける。中指は添えるように、「ぐい呑」の「腰」から「高台」に静かに到着させる。薬指は「ぐい呑」を下から支えるように持つ。
この時に、手を滑らせてしまいそうな恐怖を感じたり、何か違和感を感じたり、指などに引っかかりや痛みを感じたりするモノは、酒を呑んでいても苦痛を感じ、ストレスになってしまうので、やめておいた方が良い。
それから低重心で若干の重みを感じるものが良い。
これは、低重心だと安定感が良いため、多少ラフに扱っても転がる心配がないのが良い。またある程度の重みを感じることで、しっかりホールドして持つようになるので、落下させてしまうことも格段に少なくなる。
このポイントをしっかり押さえたものは、実際に使ってみると実に使用感が良く、とても優秀な相棒になるのだ。これは見た目だけでは、なかなか判断がつかない。
ここで注意したいのは、陶器屋さんへの配慮である。
それは、陶器屋さんは「ワレモノ」を扱っているという事である。
そして陳列されている中には、大変高価なものが並んでいる場合もある。手に持つ前には必ず「触ってみてもよろしいですか?」くらいの一言は欲しいものである。無言でおもむろに持ち上げないように気をつけたい。
それから、指で弾くように「コツコツ」と器を叩き耳を近づけて、したり顔でその音を聞く人もいるが、未使用品の新品を買うのであれば、あまり意味のない行為なのでやめておいた方が印象が良い。
これをクリアしたら、見込みを覗く。
この時に外側から見て感じた以上の奥行きや深さを感じるものが良い。酒を入れて広がる宇宙を感じるのである。また、酒がたっぷり入る「ぐい呑」は酒好きとしてもありがたいモノである。
次に「ぐい呑」をひっくり返し、底の「高台」を見る。
良い「高台」は、迷いがなくスピード感のある削り、大胆で鋭いシャープさを感じるものが良い。陶芸家たちの「ぐい呑」に対する気持ちを感じ取ることができる。
高台を確かめたら、テーブルなど平らな面に置いてグラグラせず、しっかり安定するかチェックを忘れずに行いたい。家に帰ってから「あれ?安定感がない」なんて事になってしまっても基本的に返品はできないものと覚えておきたい。
そして最後に、全体のフォルムをもう一度確認する。品格と侘びを感じるか?
失敗したくなければ、ここで、「口造り」の確認のため、実際に酒を入れて一口呑んでみたいところだが、購入前にそれが許される事は皆無なので、ここからは実践での経験値との勝負となる。
これは「百聞は一見に如かず」ではなく、まさに「百見は一触に如かず」である。
「良きぐい呑」をまとめてみると、こんなところだろうか。
形状が自分好みで、少し持ち重りする重量感があるが、手にしっかりとフィットし、見込みは広く深い。高台の造りは勢いとシャープさを感じ、置くと安定感がある。そして飲み口の唇へのフィット感が自然で、全体から滲み出る侘び感を感じるもの。といったところでる。
あなたにも、ぜひ自分に合った「良きぐい呑」と出会っていただきたい。