それでは、実際にどのような「ぐい呑」を選べば良いのか、また、どのように選び出すのか。
もちろん、あなた自身のインスピレーションだけを信じて選ぶことも楽しいことだが、折角なので、多少の予備知識を持って、これを選ぶことをお勧めする。
楽しい「ぐい呑」選びの一つの助言になればと思うところである。
前項でもお話ししたが、「ぐい呑」は茶の文化と共に成長した器であり、またそのサイズ感からも「茶碗」の小型版とも言われることが多い。また陶芸家それぞれの特徴が、最も分かりやすく現れるものとも言われている。極端に言えば、ぐい呑を見ればその陶芸家の力量を計ることができるというのだ。
そのために、陶芸家たちは、この小さな器を完成させるために大変な神経を使い、また、人一倍のこだわりを持って作り上げる。
それゆえに「ぐい呑」などの酒器は、茶器や、花器などに次いで、他の雑器とは一線を画すものとなっている。
このような事もあり「ぐい呑」の形状や見どころも、茶碗のそれとほぼ同じと考えて良いと思っている。ポイントは、「口造り(くちづくり)」「胴(どう)」「腰(こし)」「見込み(みこみ)」「高台(こうだい)」である。
口造り
胴
腰
「口造り・口縁」・・・飲み口の部分を指す。この厚さや、角度、広がり方などで、全体の雰囲気や飲みやすさなどを左右する。
一般的に、薄く外向きに広がるものは、酒がすっと口の中に入ってくる。逆に、厚く内向きにつぼまる形は、口に入って来ずらいため、鼻をぐいっと中に入れて、こちらから酒をお迎えに行くような感覚がある。実際の使い分けのポイントとしては、前者は、きりっと辛口で繊細な大吟醸などに向き、後者は、芳醇な香りを味わう純米酒に向いている。
「胴」・・・ぐい呑の側面で、大まかなシルエットを決める重要な部分。
「腰」・・・胴から底に向けて若干張り出した様な部分で、ぐい呑の印象を変え、持ちやすさなどに影響のある部分。
「見込み」・・・ぐい呑の内側で直接酒が入る部分である。良い器は、外見から想像するより深く、そして広く感じ、たっぷりとした印象を感じる。
「高台」・・・ぐい呑を安定させて立たせるための部分で、一般的には、底にある筒状の出っ張りを指す。ここを見たら陶芸家の力量が全てわかるとも言われるとても重要な部分。高台の出来次第で、ぐい呑全体の出来上がりを左右する程である。大きく分ければ、轆轤引きした後で削り出す「削り高台」と、形成後に別の部品として作っておいたものを取り付ける「つけ高台」とがある。また少しと特殊だが高台を十字に割った「割高台」などもある。
注目したいのは、ぐい呑の形状も、平形(ひらなり)、筒形(つつなり)、半筒形(はんづつなり)、碗形(わんなり)、井戸形(いどなり)、天目形(てんもくなり)、沓形(くつなり)、輪形(りんなり)、などなど、茶碗のそれになぞらえた様に多岐にわたるのである。これが収集心を刺激し、1個、2個・・・と数を増やしてしまう原因でもある。
なかには、酒を呑まないのにも関わらず、ぐい呑のコレクションをしている方なども見受けられる。これには、茶碗のコレクションは、その大きさゆえに場所をとるが、小さなぐい呑なら、さほど場所もとらずに、揃えられるといった心理が働くものと考えられる。